インドにおける日本食の受容と、日本企業進出
インド人は宗教上の理由のため、食には保守的だと言われています。しかし、外国文化の流入などで近年それが少しずつ変化しつつあり、都市部の若者や富裕層を中心に、食の多様化が進んでいます。
例えば、主要輸入食品ランキング(2011年)によると、6位にシリアルがランクイン。チャパティやイドゥリなどの伝統パンだけでなく、シリアルも朝食として定着していることがうかがえます。
また、「インド食品サービス報告書2016年版」の報告では、外食産業が年平均10%増で成長し、21年には4兆9813億ルピー(約7兆9813億円)規模に達する見込みです。このような社会の変化を追い風に、日本の食品企業もインドに進出し始めています。
今回は、日本食の可能性と、日本企業の進出についてお伝えしたいと思います。
インドでの日本食の受容
インドは、宗教上の理由から食に保守的な国だと言われていますが、近年、富裕層や都市部の若者を中心に、日本食はポピュラーになってきています。これは、彼らが海外旅行や留学などの海外経験が豊富なことや、インターネットの普及で外国文化への垣根が低くなっているからと考えられます。
インドの大都市では日本料理店が急増しており、デリーでは43店、ムンバイ6店、チェンナイ8店、バンガロール7店(2013年ジェトロ報告)もあり、ホテルやモールにも出店しているため、珍しいものではなくなっています。
またメディアでも日本食は「新しくおしゃれなもの」として取り上げられるようになっています。例えば、高級志向の女性誌Verveも寿司特集の記事を組んでおり、自宅で簡単にできるインド式巻き寿司のレシピが紹介されています。レシピの具はタンドリーチキンなど、生魚に慣れていないインド人に親しみやすくアレンジされています。
このように、料理がその土地の文化と融合し、その場で最適な形に変化し受容・発展する事はよくある事です。例えば、寿司は始めはアメリカでマヨネーズ味のカリフォルニアロールになり受容、その後、本格的な寿司が普及。日本ではイギリス式のカレーが日本風にアレンジされた後、カレーパンやカレーうどんというように独自に進化してきました。確かにインドでは宗教上の課題はあるものの、日本食も近い将来、インド文化と融合しながら受容され、それと同時に本格的な日本食も受け入れられる事が期待されます。
健康志向の高まりで日本食が人気に
日本食が人気のもう一つの理由に、健康志向の高まりが挙げられます。 一見、インドカレーは野菜がたっぷりでヘルシーですが、実は大量の油で炒めたり、ギー(インドの澄ましバター)を使いコクと旨味を引き出しています。またサモサなど油であげたスナック、ジャンクフード、大量の砂糖の入った炭酸飲料も非常にポピュラーで、日本人の想像以上にインド人は高カロリーな食事をしています。
そのためインドでは食習慣が原因と言われる心血管疾患・がん・糖尿病で亡くなる人が年間で約580万人に上り、肥満は税金も検討されるほど深刻な社会問題となっています。これを受け、近年、インドでは健康志向が強まっており、動脈硬化予防になるというオリーブオイルの輸入は、2009 年の 2,617 トンから 2010 年には 4,187 トンに増加、年率60%で需要が急増(2011 年 4 月 27 日付Olive Oil Timeによる )。また、コーラの消費量も激減したりと、消費者の嗜好の変化が顕著になってきました。
また、フィットネス市場も急成長しており、特に中間層の女性のジム加入者数が伸び、専門のインストラクターが不足するという事態も起きています。インド商工会議所連盟(FICCI)によると、マーケットは2012年の600億ルピー(約1116億円)から15年に1000億ルピー以上に拡大する見通しです。
このような健康ブームを背景に、メディアでも日本料理が油や肉が少ない健康食として注目され始めています。 例えば、インドで読者数800万を誇る大手雑誌India Todayでは、「日本はセンテナリアン(100歳以上の長寿の人)がたくさんいる国。日本食は長寿の源」と紹介していたり、米の上に野菜をたっぷりのせた物を、”sushi salad(寿司サラダ)”と名付けダイエッターに紹介したりと、日本食に好意的な記事が見られます。
インドで台頭する中間層は、知識と教養を備えており、健康への関心も高いグループです。話題性・健康面など様々な側面から、今後も日本食への関心もますます高まると予想されます。
写真左:寿司サラダ(出典:https://food52.com/recipes/81282-sushi-salad)
写真右:サモサ(出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/サモサ)
日本企業のインド進出
社会が急速に変化しているインド市場への期待感から、日本の食品企業も続々とインド進出に動き出しています。
吉野家ホールディングス・・・「BOWL GUYS」という日本料理店として進出。これは、インドでは牛肉を食べる事をタブーとしている人が多いため、牛丼の提供や牛があしらわれたロゴマーク使用が難しかったためと思われます。そのため、「牛丼の吉野家」というブランドを封印し、新しい形態の日本料理店としてスタートしました。
店舗はデリーから車で30分ほどのグルガオンにあります。グルガオンはGOOGLEやIBMといった外資系企業や、キャノン、電通をはじめとする有名日系企業が1000社以上進出している国際都市です。近年、インドの中でも最も成長していると言われ、富裕層も多く、街を歩けば様々な国籍のビジネスマンと行き交います。
BOWL GUYSは、日系企業も入る巨大ビジネスセンターの近くにあり、内装はカジュアルな雰囲気。メニューは丼を中心に、焼きそば、蕎麦、ラーメンなど日本の定食屋のようなラインナップとなっていますが、ベジタリアンが多いため、メイン具材を肉ではなく豆腐を選択できる所が大きな特徴です。
亀田製菓 ・・・ 亀田製菓(新潟市)は現地の米販売会社LTフーズと合弁会社「Daawat KAMEDA(ダワット・カメダ)」をハリヤナ州に設立し、柿の種を「カリカリ」という名称で展開する旨を発表。2017年10月には現地でのテスト販売が実施されました。今までは中国生産としていましたが、2019年6月からインド工場が稼働を開始。材料にはインド米を使う予定との事で、モディ政権掲げる「Make in Indian(インドで物作りを)」政策にもマッチしています。味は消費者調査を経て、わさび・ソルトペッパー・チリガーリック・スパイスマニアの4種類に決定。インドはベジタリアン多いので、ベジタリアン対応になっています。
大塚食品・・・ 2018年にバンガロールにOtsuka Foods India Private Limitedを設立し、ボンカレー等日本式レトルトカレーの販売を試みています。まずは社食などの業務用カレーや、サモサ(インドの揚げパン)に似ているというカレーパンから始め、ゆくゆくはレトルト販売拡大につなげていく予定。レトルトは日本では、シングル化・核家族化・女性の社会進出などを背景に、家事の効率化を望む層に受け入れられてきました。食に保守的と言われるインドですが、社会システムの変化で今後レトルトがどう普及するか楽しみです。
カレーハウスCoCo壱番屋・・・まずは2020年内に1号店をデリー近郊に、5年以内に直営店を10店オープンさせることを目標に展開していく予定と発表がありました。インド人の文化を考慮し、ベジタリアンカレーを提供する予定。
食に保守的と言われるインドですが、社会の変化によりライフスタイルにも多様性が出てきています。宗教というデリケートな課題もあり、日本のオリジナルの味をそのまま輸入するのは難しい面もありますが、多くの企業がインドの文化や価値観を理解しながらビジネス展開しています。どの国に進出するにもこのプロセスは必要ですが、ここでどれだけ相手の国に寄り添えるかが、その後のビジネスの成功の大きな鍵となることは間違い無いでしょう。
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